2007年9月17日月曜日

ありの巣

ありの巣    松本篤造

新しい巣穴から、
ありがあとからあとから出て来る。
どのありも自分の頭ほどの
土をくわえては入口の外へ出す。
どのありもいそがしそうだ、
それで、
いかにも楽しそうだ。
そうだ、
ありたちはうれしいのだ。
早くその新しい、
大きな御殿へ入りたいのだ・・・・・。

大きな広間がある。
真中に円柱が二三本立っている。
その室の中には、
涼しい色の夏の衣装が、
軽げにかかっている。
料理部屋がある、
いい香りのする、
つやつやした、
花蜜の樽がある、
すみきった
ぼたんの露の瓶もある・・・・・。


そんな御殿を作るためだもの、
ありは楽しいのだ、
いそがしいのだ、
お日さままで真上で、
にこにこ見ていらっしゃる。

海水浴

海水浴    安井純星

浜近くの駅に下りると、
すぐに砂地の畠へ出る。
じゃがいもの美しい花を
見るまもなく、
波の音に心をとらわれる。
松の木の間から、
白い波がさわいでいるのを見ると、
もうおいたっ子が走ってゆく。
ああぼくも走ってゆきたいな、
けれども、
あんな知らない大勢の中へ、
ひとりでいったら、
迷子になるかもしれん。
おかあさんとねえさんと笑いながら、
離しているのは歯がゆいものだ。

わかくさ山

わかくさ山    宮崎博

わかくさ山から
お月さまのぼる。
おぼろお月さま、
鹿の背にのった。
鹿はあわてて
山かけおりた。
春日万燈籠
いちじにともった。

水車

水車    松野一郎

水車がだんまり
廻ってら。
すとろこ、ごとんと
廻ってら。
黍っこ、粟っこ、
こぬかっこ。
日暮れりゃじいやが
籠もって、
燕麦しこたま
しょってくら。

2007年9月15日土曜日

夏が来たよ

夏が来たよ    渡辺四郎

麦の穂が熟れたよ、
豌豆の花が散ったよ、
そぅら夏が来たよ。

稲の穂がのびたよ、
川の水がひけたよ、
そぅら夏が来たよ。

ぐみの実が赤いよ、
子どもとひよ鳥仲違いだよ、
そぅら夏が来たよ。

叔母さんが来るよ、
静ちゃんといっしょに来るよ、
そぅら夏が来たよ。

いなかの道

いなかの道    安井純星

いなかの道を
ふたりづれ、
黒いショールの
ねえさんと、
赤いおべべの
妹と。

いなかの道は
日が照って、
道は粉が立つ、
青空と、
野末の山と
続いてる。

いなかの道は
川のそば、
川は浅瀬で
石が見え、
岸に柳が
つぼんでる。

湊    村上たつま

坊やは突堤(はと)が
なつかしい。

去年のことよ。
ドイツへいった、
にいさん送った。

今年のことよ。
画かきのおじさん、
巴里に送った。

かもめが沖を
飛んでいます。

にいさんいかが、
おじさんどない、
坊やは突堤(はと)が
沖見ています。

ぶどうの実

ぶどうの実    都筑益世

紫ぶどう、
ガラスの実、
落とすとあぶない、
けがするぞ、
帽子ですうと、
受けとれや。

つくし

つくし    川上すみを

大きな大きなつくつくし、
ひとさし指よりまだ長い、
大きな大きなつくつくし、
春は崖はたタコマの港、
つくしつまずににいさんは、
日本のことを思ってた。

かたぎの実

かたぎの実    槙田浜吉

いっちん、かっちん、
かたぎの実。
病目(やんめ)の子守りが、
来て拾う。
拾うはしから、
また落ちる。
いっちん、かっちん、
かたぎの実。
うしろのお山に、
日が暮れた。

あの子のお家

あの子のお家    北原白秋

あの子のお家はどんな家、
野茨が咲いたと言うていた。
子馬もいるよと言うていた。

あの子のお家はどこいらか、
雲雀よ、空から見ておくれ。、
よしきり、よしきり、行てみよよ。

あの子のお家はどのお家、
土手から土手へとのぼっても、
つばなやよもぎの風ばかり。

あの子のお家は葦の中、
むこうのむこうの沼のへり、
子馬もいるよと言うていた。

お山のあられ

お山のあられ    北原白秋

こんころことかかるは、
お山のあられよ。
おせどの笹薮、
さら、さら、さらりよ。

こんころことかかるは、
夜ふけのあられよ。
みぞれがお伴で、
さら、さら、さらりよ。

こんころことかかるは、
お山のあられよ。
おもての篠薮、
さら、さら、さらりよ。

子どもの村

子どもの村    北原白秋

子どもの村は子どもで作ろ、
みんなで作ろ。
赤屋根、小屋根、ちらちらさせて、
みんなで住もうよ。

子どもの村は垣根なぞよそよ。
ほんとによそよ。
草花、野菜、あっちこっちうえて、
すず風、小風。

子どもの村は子どもで決めよ、
みんなで決めよ。
村長さんをひとり、みんなで選び、
みんなでかわろ。

子どもの村は早起きばかり。
こけっこと起きて。
朝のうち、御本、お午から外へ、
はたらいて歌おう。

子どもの村は子どもで護(まも)ろう、
みんなで護(まも)ろう。
てんでの仕事、てんでにわけて、
みんなではげもう。

子どもの村は仲良しこよし、
いさかいせずに。
てんでに助け、てんでに仕え、
楽しんで遊ぼう。

子どもの村はお伽の村よ、
夢の里よ。
星の夜、話。月の夜、お笛。
すやすやねよよ。

子どもの村はいつでも子ども、
いつでも春よ。
子どもの祭、おてんとさんの神輿。
わっしょ、わっしょ、わっしょな。

2007年9月13日木曜日

祭の笛

祭の笛    北原白秋

祭の笛が鳴りまする。
今年も空豆もぎりましょ。
祭の笛が鳴るころは、
ほたるもつけます、赤の襟。

祭の笛を吹く方は、
お里のかわいい御宮さま、
祭の笛にさそわれて、
蛙もなきます、田の中に。

祭の笛よ、なぜ遠い、
昼間の花火はさびしのか。
祭の笛にねんねして、
三日月さぁまも丘の上。

祭の笛が鳴る夜さは、
芝居の灯もあちこちに。
祭の笛を聞いてれば、
迷子になるよな、うれしよな。

祭の笛にねかされて、
ねむれば魔法の夢ばかり。
祭の笛を吹く方は、
いつでも小さなお宮さま。

りんりんりんごの

りんりんりんごの    北原白秋

りんりんりんごの木の下に
小さなお家を建てましょか、
そしたら、小さな窓あけて、
窓から青空見てましょか。

りんりんりんごがなったなら
つぐみもちらほらまいりましょ。
丘から丘へと荷をつけて、
商人なんぞも通りましょ。

りんりんりんごに雪がふり
一夜に真白くつもったら、
それこそ、暖炉(ストーブ)もしつけて、
朝から食堂もひらきましょ。

りんりんりんごは焼きましょか、
むかずに皿ごとあげましょか、
お客はだれやら知りゃせぬが、
今にも見えそな旅のひと。

りんりんりんごの木の下に
小さなお家を建てましょか、
窓から青空見てましょか、
遠くの遠くを見てましょか。

吹雪の晩

吹雪の晩    北原白秋

吹雪の晩です、夜ふけです。
どこかで夜鴨がないてます。
燈もチラチラ見えてます。

私は見てます、待ってます。
何だかそわそわ待たれます。
内では時計も鳴ってます。

鈴です、鳴ります、聞こえます。
あれあれ、そりです、もう来ます。
いえいえ、風です、吹雪です。

それでも見てます、待ってます。
何かが来るよな気がします。
遠くで夜鴨がないてます。

2007年9月1日土曜日

跳ね橋

跳ね橋    北原白秋

はね橋のむこうに、
黄色い月があぁがった、
川土手をゆこうよ。

はね橋があがれば、
帆をまき帆をまき、ぎぃいちこ
帆ばしらがとおるよ。

はね橋がおりれば、
乾草車がかぁらころ
白い馬がつづくよ。

はね橋のしもには、
灯が水にちらちら、
ハアモニカをふこうよ。

かくれんぼ

かくれんぼ    西条八十

おもいだすのは
かくれんぼ。

待てどくらせど
来ぬ鬼に、

さびしい納屋の、
連子から

そっとのぞけば
裏庭の

柿の木にいた
みそさざい。

お清書

お清書    西条八十

空のお清書
今夜は満天、
まるい、大きな
お月さま。

空のお清書
今夜はばっ点、
雁がななめに
十文字。

まいまいつぶろ

まいまいつぶろ    北原白秋

緑の殻は、
冷たい殻は、
生まれて直ぐか。
まいまいつぶろ、
まだ角若い。

雨、雨、やめよ、
まだ雨痛い。
一つの角で、
お父さんどこぞ。
一つの角で、
お母さんどこぞ。

仲よし小よし

仲よし小よし    西条八十

仲よし小よし、
朝のパン
ふとった兄弟が
一斤二斤、
しっかりくっつき
切らなきゃ離れぬ、
仲よし小よし。

仲よし小よし
莢豌豆、
莢のなかには
親子が五人
ずらりとならんで
食べなきゃ別れぬ、
仲よし小よし。

お山の大将

お山の大将    西条八十

お山の大将
おれひとり、
あとから来るもの
つき落とせ。

ころげて、落ちて、
またのぼる
あかい夕日の
丘の上。

子ども四人が
青草に
遊びつかれて
散りゆけば。

お山の大将
月ひとつ、
あとから来るもの
夜ばかり。