2007年8月30日木曜日

月夜の家

月夜の家    北原白秋

こわれたピアノに、
こわれたいす、
誰が月夜に弾いててか、
誰もいもせず、音ばかり。

白いむくげに、
青硝子、
母様もしかと来て見ても、
中には月のかげばかり。

ときどき光る、
目が二つ、
黒い女猫の目の玉か、
それともピアノの金の鋲。

こわれたピアノに、
こわれたいす、
誰が弾くやら泣くのやら、
部屋には月のかげばかり。

空には七色、
月の暈、
いつまで照るやら、照らぬやら、
こわれたピアノの音ばかり。

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